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Soil Behaviour and Critical State Soil Mechanics を読む (第1章前半)

 この本はイギリスの土質力学の大家、David Moor Wood先生の著作になります。欧米では学部生向けに書かれているとのことですが、とても参考になるとのことで大学の先輩から譲っていただきました。

第1章 イントロダクション:モデルと土質力学について


$e=G_s w$の導入

 多くの土質力学の導入では、土中の主な三要素(土粒子、水、空気)についてそれぞれの質量と体積を定義して、それらを用いて複数のパラメータを定義することが多い気がします。ある意味演繹的です。しかし本著作では土の比重$G_s$と含水比$w$という室内試験で計測できるパラメータから間隙比$e=G_s w$の議論している点が目新しいです。この著作ではこうした実験や観察に基づく帰納的な論理展開がなされます。

比体積$v$の導入意義

 $e$と同様な意味を持つパラメータとして比体積$v$がありますが、こちらは数学的な利便性のために導入すると書かれていますね。具体的には体積ひずみ$\varepsilon_p$が$v$を用いると、

$$\varepsilon_p=\frac{-\delta v}{v}$$

と記述できる一方で、$e$を用いると

$$\varepsilon_p=\frac{-\delta e}{1+e}$$

と若干冗長な書き方になることに由来します。では、実際の研究や実務ではどうなのかというと、圧倒的に間隙比で整理する場合が多いんですよね…。出典を忘れてしまったのですが、理由として「体積がほぼ不変な土粒子を分母としたほうが、より間隙の特性を直接表すパラメータとなるから」という説明を聞いたことがあります。ただ間隙比は実験で直接求められるパラメータではないですし、単に間隙比に1が足されたパラメータである以上、比体積で良いのではとも思ってしまいますが…

細粒分を間隙としてみるか土粒子としてみるか

 実験で使用する標準砂(Ottawa砂、豊浦砂や硅砂)とは異なり、自然界に存在する土の粒度分布はかなり幅広いです。英語でwell-gradedと呼ばれるこうした土は、均等係数$C_u=D_{60}/D_{10}$と曲率係数$C_c=(D_{30})^2/(D_{60}D_{10})$を基準にすると、次のような範囲に属する土を指します。(ASTM D-2487)

$$C_u \geq 4 \quad \rm{and} \quad 3 \geq C_c \geq 1$$ (礫の場合)

$$C_u \geq 6 \quad \rm{and} \quad 3 \geq C_c \geq 1$$ (砂の場合)

こうした土において、粒径の細かい粒子(細粒分)は土骨格に力学的に寄与しているとは言えない場合があり、この場合比体積$v$の計算式は、

$$v_g=1+\frac{\rm{間隙体積}+\rm{細粒分体積}}{\rm{粗粒分体積}}$$

として計算される場合があります。現在では細粒分の全ての体積を空隙としてみなすのではなく、ある寄与率$b$を用いて等価骨格間隙比$e_{ge}$を定義したり1、細粒分の粗粒分に対する割合を変えていった場合に浸食2や力学特性3がどのように異なってくるのかを論じた研究が多くありますね。

過剰間隙(水)圧について

 飽和土を仮定した際に、間隙水の平衡状態が乱され間隙水圧が場所場所によって異なる場合があります。この場合の間隙水圧の変化分を過剰間隙水圧と定義する、とのことです。

 また間隙圧の効果を検討する場合は、経験則的なアプローチと、粒子の接触応力から議論するアプローチ、土要素に入力される仕事によるアプローチの3つがあるそうです。1番目と2番目のアプローチはよく見知ったものですが、3番目はあまり馴染みがないですね。参考文献に挙げられているHoulsby, 19824の概要では、連続体力学の観点から立式を行うと、外部からの入力仕事は土骨格の変形と間隙水の粘性によってのみ損失され、それらの損失は互いに独立であることが述べられています。そして「Terzaghiによる有効応力の原理を、土骨格と間隙流体に対する仕事の独立性原理と見なすという、新しい解釈を提示した」と記述しています。

三軸試験

 三軸試験において計測可能なパラメータは主に5つです。この5つとはセル圧$\sigma_{ce}$、軸力$F$、軸変位$\delta l$、供試体の体積変化$\delta V$、間隙圧$u$です。ここからこれらの計測可能なパラメータを使っていくつかの重要な計算式を導きます。

 まずは供試体の上端面に作用する軸応力$\sigma_a$を計算します。供試体上端面での力の釣り合いから、

$$\sigma_a A = \sigma_r (A-a)+F$$

$$\sigma_a = \sigma_r \left(1-\frac{a}{A}\right)+\frac{F}{A}$$

の式が成立します。ここで$a$は載荷ロッドの断面積、$A$は供試体あるいはキャップの断面積です。またセル圧$\sigma_{ce}$と側圧$\sigma_r$は厳密には異なります5が、ここでは等しいものとします。偏差応力は軸応力とセル圧の差で定義されることから、

$$q=\sigma_a-\sigma_r=-\frac{a}{A}\sigma_r+\frac{F}{A} \tag{1}$$

となります。研究室で使用している寸法は載荷ロッドの直径が13mmで、供試体の直径が50mmです。ここで$a/A$の値は0.0676となります。実際に試験条件を考慮した値を代入すると$-a\sigma_r/A$の値は-20kPa程度になります6。地盤工学会では、この軸応力に影響を与える要因について、より詳細な式を与えています7。この-20kPaという値は決して無視できる大きさではないと個人的には考えているのですが、ひとまずこの著作での扱いと同様に、この項が十分に小さい値であると仮定します。すると式(1)は

$$q =\sigma_a-\sigma_r \simeq \frac{F}{A}$$

となり、簡潔に記すことができます。

三軸試験での応力の自由度は2ですが、線形変換により様々なペアが設定可能です。一番計測の観点から明確なのは、直接計測が可能なセル圧$\sigma_{ce} \simeq \sigma_r$と偏差応力$q$の組み合わせですが、他にも主応力の組み合わせである$\sigma_a$と$\sigma_r$のペアや、後述する平均有効主応力$p$と偏差応力$q$のペアなどがあります。

三次元空間での土要素に作用する仕事

微小の立方体要素に有効応力$\sigma’_{xx}$、$\sigma’_{yy}$、$\sigma’_{zz}$とせん断応力$\tau_{yz}$、$\tau_{zx}$、$\tau_{xy}$が作用している状況を想定します(後ほど図を作ります)。この応力の作用下において、鉛直ひずみ$\delta \varepsilon_{xx}$、$\delta \varepsilon_{yy}$、$\delta \varepsilon_{zz}$とせん断ひずみ$\delta \gamma_{yz}$、$\delta \gamma_{zx}$、$\delta \gamma_{xy}$が生じているとします。このとき、微小要素に入力される仕事増分$\delta W$は、

$$
\delta W=\sigma’_{x x} \delta \varepsilon_{x x}+\sigma’_{y y} \delta \varepsilon_{y y}+\sigma’_{z z} \delta \varepsilon_{z z}+\tau_{y z} \delta_{y z}+\tau_{z x} \delta \gamma_{z x}+\tau_{x y} \delta \gamma_{x y}
$$

と表現できます。ここで有効主応力$\sigma’_1$、$\sigma’_2$、$\sigma’_3$と有効主ひずみ$\delta \varepsilon_1$、$\delta \varepsilon_2$、$\delta \varepsilon_3$が共軸である場合、上式は、

$$
\delta W=\sigma’_{1} \delta \varepsilon_{1}+\sigma’_{2} \delta \varepsilon_{2}+\sigma’_{3} \delta \varepsilon_{3}
$$

と表現できます。三軸試験では載荷方向と主応力軸が等しいため$\sigma’_{1}=\sigma’_a$であり、$\sigma’_{2}=\sigma’_{3}=\sigma’_r$となります。主ひずみについては主応力と強軸であるとの仮定から、$\delta \varepsilon_{1}=\delta \varepsilon_{a}$であり、$\delta \varepsilon_{2}=\delta \varepsilon_{3}=\delta \varepsilon_{r}$が成立します。このことから入力仕事の増分は

$$
\delta W=\sigma’_a \delta \varepsilon_{a} + 2\sigma’_r \delta \varepsilon_{r}
$$

と表されます。ここからは若干恣意的な式変形をしていきます。ここでの仮定は、要素の変形は体積ひずみとせん断ひずみの2つの成分のみで表現できるというものです。ここでの体積ひずみとは、主ひずみの全ての成分を足し合わせたものに相当します。またこの体積ひずみは微小要素に作用する平均的な有効主応力に支配されているという仮定も立てます。この2つの仮定に基づいて体積ひずみ$\varepsilon_{v}$と有効平均主応力$p’$をそれぞれ

$$\varepsilon_{v}=\varepsilon_{a}+2\varepsilon_{r}$$

$$p’=\frac{\sigma’_a+2\sigma’_r}{3}$$

と定義すると、$p’$による入力仕事の増分(体積仕事増分)$\delta W_v$は

$$\delta W_v=p’ \delta \varepsilon_{v}$$

と表現されます。ここで$\delta W$と$\delta W_v$の差に注目します。

\begin{eqnarray} \delta W – \delta W_v &=& \sigma’_a \delta \varepsilon_{a} + 2\sigma’_r \delta \varepsilon_{r} – \frac{1}{3}(\sigma’_a+2\sigma’_r)(\delta \varepsilon_{a}+2\delta \varepsilon_{r}) \\
&=& \frac{2}{3}\sigma’_a \delta \varepsilon_{a} – \frac{2}{3}\sigma’_a \delta \varepsilon_{r} – \frac{2}{3}\sigma’_r \delta \varepsilon_{a} + \frac{2}{3}\sigma’_r \delta \varepsilon_{r} \\
&=& \frac{2}{3}(\sigma’_a – \sigma’_r)(\delta \varepsilon_{a} – \delta \varepsilon_{r}) \end{eqnarray}

と記述できます。ここで$\sigma’_a-\sigma’_r=q$であることと、新たに定義した偏差ひずみ増分$\delta \varepsilon_{q}=2/3(\delta \varepsilon_{a} – \delta \varepsilon_{r})$を用いると

$$
\delta W – \delta W_v = q \delta \varepsilon_{q}
$$

となります。これは全仕事増分から体積仕事増分を引いた値は、せん断と関係のある成分を持つことを意味します8。このため式の右辺を新たに偏差仕事増分$\delta W_d$と定義すると

$$
\delta W = \delta W_v + \delta W_d
$$

と表されます。この式は供試体に入力される全仕事増分は体積変化に起因する成分とせん断に起因する成分の2つのみで構成されることを意味します。

もう少し一般的な議論へ

 主応力と主ひずみを用いない一般的な形式で、上と同じ議論をします(途中式は後ほど記述予定)。前項での流れを整理すると

応力とひずみについて平均有効主応力と体積ひずみを定義
→定義した2つのパラメータを用いて体積仕事増分を定義
→全仕事増分から体積仕事増分を引いたものを応力とひずみの積で表す
→その際の応力がせん断応力、ひずみがせん断ひずみ増分とし、項全体を偏差仕事増分と定義する

でした。この流れに沿って一般形の式を変形すると次のようになります。

$$p’=\frac{\sigma’_{xx}+\sigma’_{yy}+\sigma’_{zz}}{3}$$

$$
q=\left[\frac{\left(\sigma’_{y y}-\sigma’_{z z}\right)^{2}+\left(\sigma’_{z z}-\sigma’_{x x}\right)^{2}+\left(\sigma’_{x x}-\sigma’_{y y}\right)^{2}}{2}+3\left(\tau_{y z}^{2}+\tau_{z x}^{2}+\tau_{x y}^{2}\right)\right]^{1 / 2}
$$

$$
\delta \varepsilon_{p}=\delta \varepsilon_{x x}+\delta \varepsilon_{y y}+\delta \varepsilon_{z z}
$$

$$
\delta \varepsilon_{q}= \frac{1}{3}\left\{2\left[\left(\delta \varepsilon_{y y}-\delta \varepsilon_{z z}\right)^{2}+\left(\delta \varepsilon_{z z}-\delta \varepsilon_{x x}\right)^{2}+\left(\delta \varepsilon_{x x}-\delta \varepsilon_{y y}\right)^{2}\right]+ 3\left(\delta \gamma_{y z}^{2}+\delta \gamma_{z x}^{2}+\delta \gamma_{x y}^{2}\right)\right\}^{1 / 2}
$$

なおここに出てくる様々な係数は、仕事を計算する際に辻褄を合わせるために導入されたものであり、物理的な意味は存在しないと言えます。

  1. 兵動 太一, 山田 卓, 兵動 正幸, 岡林 巧, しらすのせん断弾性係数と細粒分の評価, 土木学会論文集C(地圏工学), 2011, 67 巻, 2 号, p. 174-185, 公開日 2011/04/20, Online ISSN 2185-6516, https://doi.org/10.2208/jscejge.67.174, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejge/67/2/67_2_174/_article/-char/ja
  2. Liu, Yajing, et al. “A coupled CFD‐DEM investigation of suffusion of gap graded soil: Coupling effect of confining pressure and fines content.” International Journal for Numerical and Analytical Methods in Geomechanics 44.18 (2020): 2473-2500.
  3. Sufian, Adnan, et al. “Influence of Fabric on Stress Distribution in Gap-Graded Soil.” Journal of Geotechnical and Geoenvironmental Engineering 147.5 (2021): 04021016.
  4. Houlsby, G. T. “The work input to a granular material.” Géotechnique 29.3 (1979): 354-358.
  5. メンブレン貫入の補正、二重管ビュレットの水面と供試体中心線との高低差、間隙水圧計や差圧計と供試体中心線の高低差が、補正項として入ってきます。また円柱座標系であれば主応力は軸応力、半径方向の応力、周応力(フープ応力)になりますが、供試体内の排水の非一様性を仮定すると、側圧と周応力は等しくなりません。
  6. 等方圧密を仮定して有効拘束圧$\sigma’_r=100\rm{kPa}$、また背圧$u=200\rm{kPa}$を作用させた場合、セル圧は$\sigma_r=\sigma’_r+u=300\rm{kPa}$となる。
  7. 将来的に独立した記事にする予定です
  8. なぜ、せん断力と関係があるかと言えば、モールの応力円において$\sigma’_a-\sigma’_r$が要素に作用する最大せん断応力の2倍に相当するからです。また$2/3(\delta \varepsilon_{a} – \delta \varepsilon_{r})$はモールのひずみ円において最大せん断ひずみの2/3倍に相当します。後述しますが、実際の最大せん断応力と最大せん断ひずみの何倍であるかは問題でありません。なぜなら、この倍率はエネルギーの計算において辻褄を合わせるためにだけに存在しているからです。

カテゴリー: 本とか論文とか

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