第1章 イントロダクション:モデルと土質力学について
三軸試験での応力経路
三軸試験では基本的に$p’-q$平面上での全応力経路は、図に示す4経路に限定されます。(図は後ほど作成します)これは三軸試験では応力の自由度は側応力$\sigma_r$と軸応力$\sigma_a$になりますが、片方を固定しもう片方を変化させるのが一般的であるためです。研究レベルでは、ひずみの体積成分とせん断成分を分離するために、平均主応力一定の試験なども行われますが、載荷速度が小さく(試験時間を多く要する)、フィードバック制御が必要になるため、実務ではあまり行われていません。
背圧について
三軸試験では排水が自由に行われる環境下であれば、間隙水圧は発生しません。そして供試体内の間隙が水で100%満たされている場合、供試体からの水の出入りをビュレットやロードセル、あるいは非接触変位計、流量計などで計測すれば、供試体の体積変化を計測することができます。
しかしながら、現実的に三軸試験の供試体内の間隙を100%水で満たすことは不可能に近く、実態としては供試体は間隙内に空気と水が混在する状態で存在します。この場合、供試体からの水の出入りの量と供試体の体積変化は等しくなりません。1ではどうするかと言うと、間隙水に予め正の圧力を付与します。この正の圧力によって、水は非圧縮性であるため体積を変化させることはありませんが、間隙中の空気は体積を減少させます。これにより供試体からの体積変化と水の出入りを可能な限り近似することが可能になります。この際の、間隙水に与える正の圧力のことを、背圧と呼びます。
ダイレタンシーについて
一般的に鉄などの金属材料は、平均主応力が変化したときのみ体積変化が生じます。しかし、土はせん断したときにも体積変化が生じます。この現象をダイレタンシーと呼びます。
(排水、非排水に伴う応力経路の変化の図を作成予定)
前項で説明した背圧は、このダイレタンシーを力学試験で考慮する際にも重要になります。ここで密な砂を、非排水条件でせん断した場合を考えます。密な砂ですので、せん断直後から土は体積膨張をしようとします。しかしながら、今回は非排水条件でのせん断を行っていますので、体積膨張の分有効応力が上昇し、結果として間隙水圧が減少することになります2。せん断すればするほど、間隙水圧は減少していき、最終的には最初に与えていた初期間隙水圧(背圧)分を全て使い切ってしまいます。この際、全応力は有効応力と等しくなっています。そしてここから更にせん断することを考えます。この状態でもさらに間隙水圧は減少していきます3。最終的に、この間隙水圧は(ゲージ圧基準での)飽和水蒸気圧と等しくなるまで、低下します。そして飽和水蒸気圧と等しくなった段階で、水は液相から気相へと変化し、爆発的な体積膨張を引き起こします。このような現象が、求めたい力学的現象(ピーク強度や残留強度)が発生する前に起こっては困ります。このため、密な砂の非排水せん断試験では比較的大きな背圧を作用させる場合が多いです。
平面ひずみ条件について
- 等しくならなくても、差が試験中で一定であればいいのではないかと思われる方もいるかも知れません。しかし実際には、供試体内に空気が存在するほど、粒子間に働くサクションが大きくなり、供試体全体の強度は上昇します。また剛性も上昇するため、同じ応力を供試体に作用させた際に生じるひずみが小さくなります。これにより、水の出入り量と供試体の体積変化量の差も、試験中に変化することになります。このような理由からも、飽和条件を仮定した実験では、背圧を上げることで可能な限り溶存空気の体積を少なくすることが必要になります。
- イメージしにくい方は、供試体が膨張した→非排水条件であれば等体積でないといけない→体積を減らすためには、間隙を小さくしないといけない→有効応力を増加させる→間隙水圧の減少、という流れで理解できますでしょうか…?
- 間隙水圧が負になるとはどういうことだ!と思われる方もいるかと思いますが、土質力学で出てくる圧力は全てゲージ圧(絶対圧-大気圧)です。この状態でも絶対間隙水圧は常に正です。
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